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ラムズフェルド米国防長官の退任・・米軍改革の功罪

米国防長官:イラク占領「うまくいかなかった」講演で語る

 辞任が決まったラムズフェルド米国防長官は9日、
 カンザス州の同州立大学で講演し、イラクでの米軍の活動について
 「(03年3月からの)大規模戦闘はすばらしい成功を収めたが、
 (占領からの)第2段階では
 十分にうまくかつ迅速にはいかなかったのは明らかだ」と述べ、
 戦略や戦術が十分に機能しなかったことを認めた。
 
 長官は、宗派間抗争やイスラム過激派同士の対立によって
 「状況はさらに複雑化した」と指摘。
 「米国は陸海空軍を持たず、
 闇にまぎれて作戦を実施する凶暴な武装勢力と
 初めて対峙した」と述べ、
 対応に苦慮していることを明らかにした。
 
   (毎日新聞)


2003年5月1日、ブッシュ大統領は、
空母エイブラハム・リンカーンの艦上で

  「イラクにおける主要な戦闘活動は終了した。
  この戦闘で米国と同盟諸国は勝利を収めた」

と高らかに宣言しました。

歴史の中で時として起こる喜劇のような一コマですが、
今思えば、あれは何だったんだろうと思いますね。

さて、ラム長官がとうとう辞任しました。
事実上の更迭です。

私のラムズフェルド評は

  軍政家としては一流、政治家としては三流

というものです。

以下、解説します。


ドナルド・ラムズフェルド。
1932年生まれ。
海軍に入隊してパイロットになった後、政治家に転身。
1975年からフォード大統領の下で国防長官となる。
77年から民間に戻り、民間企業の重役などを務める。

ブッシュ政権下で再び国防長官となり、
世界規模の米軍再編を行う。
イラク戦争では積極的に侵攻賛成の立場を取り、
少数の兵力のみで
戦争の勝利と戦後統治は可能とブッシュに進言した。

いざ開戦後、米軍は鮮やかな快進撃を行い
戦争にはパーフェクトで勝利しました。
しかし、占領統治後のゲリラ戦は泥沼状態に陥り、
ラム長官もろともあえなく沈没してしまいました。

ラムズフェルドは米軍の再編と効率化を図り、
RMAによる少数精鋭の軍隊に仕立て上げましたが、
敵が通常の軍隊ならば無敵であった米軍も、
ゲリラ戦ではその神通力は発揮されず、
今も十数万の兵力がイラクで苦闘を続けています。

この十数万という兵力規模が
イラクのような国家においては過小であったことは明らかで、
これはラムズフェルドの責任ですね。

開戦直前の2003年2月、
エリック・シンセキ米陸軍参謀総長は議会の公聴会で、

  イラクの戦後処理には「数十万人」の米軍部隊が必要

と見解を述べ、
これに激怒したラム長官が
シンセキを退任に追い込むという一幕がありました。

このシンセキ参謀総長はハワイ出身の日系人で
日系として初めて大将に昇進した人物です。
また、ラム長官と同じく米軍の改革を推し進めていた人で、
あの米陸軍の「ストライカー旅団(SBCT)」は
この人の発案によるものです。

ただし、軍の改革に関しても
このシンセキのような軍の将官と
文官であるラムズフェルドでは温度差があり、
ラムズフェルドはとかく急進的で
少数精鋭の効率化された軍隊を目指していました。

ラムズフェルドは略歴を見ての通り、
民間企業に勤めていた時期が長く、
企業経営の手法を軍政に持ち込もうとしました。

即ち、効率化、省力化、経済効率。
贅肉をそぎ落とし、無駄を一切省く。
余剰機能と人員をバッサリ削減する。

確かに企業と軍隊は
共に一定の目的を追求する機能組織であることから、
共通する要素も数多くあります。
ビジネス書は軍隊運営の参考に使えますし、
逆に、兵書が経営者に好まれたりします。

しかし、企業と軍隊では全く異なる部分が3つあります。
一つは軍隊は利益を生み出さず、
もう一つは軍事作戦の失敗は死を意味し、
最後に軍隊とは企業以上にプロフェッショナルの集団であり、
一旦削減してしまうと急には元には戻せないということです。

ラムズフェルドが最も嫌った「余剰」の部分こそが、
ある意味、軍隊にとって最も重要な部分であり、
戦争につきものの不確定要素が出現した際に
これに対応する余裕を与えてくれるものなのです。

一定の余剰こそが、ある一つのシステムが機能しない時に、
別のシステムが確実に取って代われる余裕を生み、
即座に代替の行動が取れるようになります。

企業経営のように経済効率のみを追求すれば、
事前に想定した環境下においては
素晴らしい能力を発揮するでしょうが、
別な想定外な環境や状況が出現した場合、
これに対応する余裕が無くなります。

つまり「環境特化」が行き過ぎると、
別な環境下では全く役に立たなくなるわけです。

数百キロ離れた場所から
航空機やミサイルで敵をピンポイントで攻撃し、
極力人的損耗を避けることは得意な米軍が、
都市のゲリラ戦の泥沼に引きずり込まれれば、
その神通力は発揮できず、
必要なのは電子兵装のチップではなく、
小銃と汗と血と、そして兵数となります。

数万年前の地球に「サーベルタイガー」という動物がいました。
その名前の如く巨大なサーベルのような牙をもった肉食獣で、
大きな牙でマンモスやゾウなどの
大型の動きの鈍い動物を襲っていました。

その大きな牙と発達した顎は
動きの鈍い大型動物を襲うのに適してましたが、
逆に敏捷性に欠けていました。

やがて、気候の変動により獲物となる大型の動物が減少し、
変わって足の速い小型の動物が増え始め、
彼の武器である大きな牙は欠点へと変わっていきます。

結局、自然の淘汰作用で
獲物を狩れないこの特異な肉食獣は滅びていくわけですが、
これなどは「環境特化」の一例です。

一定の状況・環境に特化しすぎると
別な状況化では全く役に立たなくなる。
これは身近な日常生活の道具などもそうですね。
特化品と汎用品の違いです。

同じことが、個人の才能・特性や組織形態にも言えるわけで、
このラムズフェルドの軍改革は
あまりにも効率を重視し、余剰機能と人員を削減したために、
正規軍相手に抜群の破壊力を発揮する米軍も
想定外の環境が出現すると対応能力を失うわけです。

おそらく人件費を脇に置いても
米軍とは世界一金のかかっている軍隊でしょう。
その軍隊が二束三文の装備しかもたぬ、
イラクのゲリラ相手に手こずっているわけで、
ラムズフェルド的効率思考から言えば、
投資に見合わない馬鹿げた結果ということになります。

むしろコストの高い電子兵装を減らしてでも
人員を増やし、兵の防弾チョッキや
兵員輸送車の薄い装甲を厚くした方が、
ことゲリラ戦では効果が大きかったでしょうね。


ただし、私は思うのですが、
このラムズフェルドの軍改革とイラク戦の結果は
彼個人の能力に全ての責任を負わせるのは酷な気がします。

もっと根元的に考えるならば、
これは米国の国家戦略と
現実の間にひずみがあるのです。

つまり、米国の国力が退潮傾向にあり、
財政も膨大な赤字を抱える中で、
その軍隊は戦後一貫して
世界秩序の維持を担わされていることに問題の根本があります。

世界の秩序維持という米国の国家戦略から見れば、
ラムズフェルドの軍改革は無茶な内容だと思います。
効率化とは言え、軍の兵数をバッサリ削り、
再編と少数精鋭の名の下で縮小させたわけですから。
これは軍の高官達もそのような目で見ていると思います。

しかし、米国の国力や財政規模から考えると、
縮小・再編を行わざるを得ない台所事情があるわけです。

このギャップですね。
壮大な国家戦略と赤字財政のギャップ。
世界の秩序・覇権維持と国力衰退のギャップ。

このギャップの中で
ラムズフェルドは知恵をしぼらなければいけなかったわけで、
まあ、同情の余地はあると思います。
少ない元手で大きな目標を負わされたわけですから。

これは歴史の大きな観点から見るならば、
過渡期の国家の一コマです。
過渡期の国家の理念と現実のギャップを負わされた、
一人の軍政家・政治家のワンシーンです。

そのギャップの中で彼はとにもかくにも
敵の正規軍相手には無敵に近い軍隊を作り上げたわけで、
これは評価していいと思います。

しかし、効率化を重視するあまりに人員と機能を削りすぎ
特定環境に特化させすぎたわけで、
この「環境特化軍隊」を
別種の環境が待ち受けていると想定できずに
侵攻作戦を行ってしまったことは彼の不明によるものです。

よって、軍政家として一流、政治家として三流。
これが私のラムズフェルド評です。





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コメント

民間企業の手法

いろいろな意味で、ラムちゃんはマクナマラ(フォード→国防長官)と比較される運命にあるようですね。

マクナマラのコスト・イフェクティブネス(邦訳は費用対効果)はベトナムの泥沼の中で失敗しました。で、時代はLIC対応で進んでいたはずですが・・・。

  • 2006/11/13(月) 13:09:58 |
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  • クマのプータロー #-
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